本研究の目的は、正規・非正規雇用間処遇格差是正のための労働市場政策と労働法制の最適な組み合わせを理論的且つ計量的に導き出そうとするものである。平成22年度は過去2年間の研究成果を踏まえて、最終的な理論モデルの構築のための作業を展開した。また、他の研究者からの意見・コメント・批判等を取り入れる機会としての国内外の学会発表及び必要な追加的な調査を行った。 理論モデルから導き出された結論は、解雇規制の厳格化と労働者の離職率との間にトレード・オフの関係が存在するときには、厳しい解雇規制と失業時の低い所得補償という組み合わせが社会的厚生水準を最大にするというものである。仮に解雇規制の厳格化と労働者の離職率との間にトレード・オフの関係が存在しないならば、解雇規制が全く存在しない時に雇用労働量と社会的厚生水準が最も高い水準となる。但し、モデルから導き出された社会的厚生水準を最大にする状況は、労働の生産性の向上や労働者の賃金水準の上昇を意味するものではない。つまり、雇用労働者数が増加し社会的厚生水準が高いものになったとしても、労働者1人当たりの生産量(=労働生産性)が増加するというわけではない。むしろ、一定の生産量をより多くの労働者に分配することによって社会的厚生水準がより高いものとなるということである。つまり、労働市場の柔軟性を高めた結果、労働市場のミスマッチが減少するものの、社会全体としての生産性が高まるということではない。この研究結果を踏まえた今後の研究課題は、「正規雇用及び非正規雇用労働者の生産性と賃金の上昇のために労働市場の制度と政策はどうあるべきか」に関して、理論的に解明することである。
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