研究課題
平成22年度では主に、中国、日本、韓国、アメリカ、その他地域を結ぶ国際リンクモデルについて改訂を重ねた。またこれに基づきリーマンショック後の各国の大規模な財政政策の影響、特に政府投資・減税効果の国際的波及の推定を行った。モデル改訂については、本システムでは貿易モデルが重要な役割を果たすが、今年度、translog modelの応用による新しいモデルを構築し、従来モデルを大幅に改訂した。改訂したモデルによれば、各国の投資乗数は日本、韓国などで低く、中国ではかなり高水準である。これは国際研究比較から妥当な水準と考えられる。国際間の財政政策の波及は中国や韓国がアメリカ、日本の影響を大きく受けるのに対して、逆方向にはほとんど影響がないことが明らかになった。この点では、アメリカのKrugman教授等が中国の為替政策を批判して、「アメリカに甚大な被害を与えている」とした研究とは全く反するが、同じく、アメリカの著名な計量経済学者であるR. Fair教授からは本研究と同じ結果を得たとのコメントを得た。実証的には、先進国と途上国の影響は相互に非対称である。また、中国の固定為替政策を変更(元の切り上げ)した場合の影響では、中国は大幅に輸出を減らし、GDPを下落させる。ただし、その影響はアメリカ、日本には極めて限定的である。これらの結果は、上述の「中国脅威論」とは相容れない結果である。原油等価格の国際価格の上昇は資源節約的な日本への影響が少ないのに対して、アメリカ、中国のようなエネルギー効率の悪い国には大きな影響をもつ。この結論は中国でのワークショップ(無錫市江南大学)でも報告し、関心を持ってもらえた。上述Fair教授のコメント等からモデル改訂の有力な示唆を得た。消費における資産効果を明示的に扱うことや、貿易モデルの安定性、forward-lookingモデルの有効性に関する懐疑など、今後の課題が明らかになった。
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The Journal of Econometric Study of Northeast Asia
巻: Vol.7, No.2 ページ: 17-37