初年度は、研究課題全体の準備段階と位置づけ、(I)従来の理論整理と仮説の設定、(II)計量分析のためのデータ分析を中心に行い、課題の性格上これらの作業は互いに関連をもち並行して進めることにあった。 企業の国際競争力指標として、Deanne Juliusが提案したNet Foreign Salesに注目し、その分析内容を投稿論文Kazuo Inaba “International Competitiveness of the Japanese Firms"にまとめた。1989年にDeanne Juliusが提案し、その後アメリカ商務省が展開した所有者ベースの指標(Net Foreign Sales)に基づき、日系海外子会社、在日外資系子会社の事業活動に関わる統計を用いて、輸出入データ(Net Exports)を企業ベースの競争力指標に組み換えを行った。分析の特徴は、従来の研究と異なり、地域別、産業別の国際競争力とその変化を把握しようとする点にある。 分析期間は海外直接投資が急増した1980年代後半から2004年までを対象としている。まず、1980年代では、Net Foreign SalesがNet Exportsをわずかに上回るだけであったが、その後その差は拡大し、日本の国際競争力の強化を裏付けている。産業別では、輸送機器、電気機器などの輸出産業において顕著であるとともに、国内での輸出競争力を失った繊維、非鉄金属でもNet Foreign SalesがNet Exportsを上回り、海外において競争力の回復が伺える。日本企業の進出先を北米、アジア、欧州に分けた場合、どの地域においても2004年時点でのNet Foreign SalesはNet Exportsを大きく上回っている。計量分析のための基礎的データ分析と企業の国際競争力指標を確定することができたので、次年度は海外子会社の調査を踏まえ、国際競争力の規定要因について考察を進める予定である。
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