今年度では、主に東京大都市圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の1都3県)を研究対象として、1975年から2003年の主要産業に関する時系列データを用いて、動学的外部経済が内生的経済成長に与える影響に関する実証分析を行った。分析では、近年時系列に関する計量経済学の中で考案された、経済の構造的変化を想定した単位根検定と共和分検定に関する新しい分析手法を応用し、既存研究ではまだ分析されていないNetwork型の動学的外部経済を大都市圏内の交通ネットワークによる知識のスピルオーバー効果と定義した。 分析の結果、Network型の動学的外部経済は製造業、金融、商業及び全産業において全要素生産性(TFP)に影響を与えていることが分かった。また、産業内の集積によるMAP型の動学的外部経済は製造業、金融、商業、サービス業及び全産業における全要素生産性に貢献している。しかし、産業の多様性によるJacobs型の動学的外部経済はサービス業にのみ、産業内の競争によるPorter型の動学的外部経済は製造業にのみ、影響を与えているようである。 この研究成果の意義は次の通りである。まず、産業における集積と特化は製造業、金融、商業、サービス業及び全産業の全要素生産性の増加をもたらすと考えられる。一方、産業における多様性と産業内の競争が全要素生産性の向上に貢献するのはそれぞれサービス業と製造業に限られる。しかし、大都市圏内の交通ネットワークによる知識のスピルオーバーは製造業、金融、商業、サービス業及び全産業の全要素生産性の成長に寄与するものである。地域経済の成長を考える際には、こうした動学的外部経済の重要性を考慮する必要である。
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