本年度は中国の諸地域内に形成された産業集積と地域内産業連関構造との関係を考察するために、前年度から引き続いて、中国沿海諸省における諸産業の産業集積の同定を行った。この目的のために、まず(1)空間的自己相関と(2)空間的集中度に関する2つの測度を組み合わせて、江蘇省・浙江省・広東省という産業集積が最も進んだ地域における製造業約400業種の集積度を測定した。その結果、中国製造業の集積度は、総体としてみれば、成熟した産業集積で名高いイタリアの製造業と比較しても、全く遜色の無い集積度に到達しているという事実を見出した。厳密な集積測度によって、こうした事実を指摘した研究は、筆者の知る限り、世界初である。 次にGISを用いて、「どの地域にどの産業の集積が形成されているか」を特定した。これは「中国の産業集積地図」の作成へと直結しており、これを一般にも利用可能なものとすれば、中国の産業地理に興味を有する学会・実業界にも有益な情報を提供出来ると思う。 さらに、こうして特定された産業集積と地域産業連関の関係を吟味した。そのために浙江省と江蘇省と上海市の地域間産業連関表に対して、Czamanski[1971]の分析手法を適用し、各地域のindustrial complexを特定した。最も顕著に見出されるのは繊維・アパレル産業系のindustrial complexであったが、それに所属する諸業種が空間統計学的にみても有意な近接立地をとっているかを検定出来れば、中国の産業集積の形成と維持にあたって、前方連関効果や後方連関効果が重要な作用を果たしていると想定出来ると考えた。厳密な統計学的検定は、更なる課題として残されているが、繊維・アパレル関連諸業種の集積が、かなりの近接立地をとっていることが初歩的分析により見出された。この点に興味をもったため、中国のアパレル産業の権威である華東大学紡織経済研究センターの顧慶良教授から、揚子江デルタ地区の繊維・アパレル産業集積の産業連関と企業間関係について聞き取りを行った。
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