国際間における人の移動に関する研究プロジェクトの1年目として、本年度は実態調査、特に中国とタイを中心に聞き取り調査、資料・データの収集を行った。中国においては、人の都市への集中・集積あるいは放牧業による砂漠化の問題など、人の移動による環境問題が深刻になってきている現状が浮き彫りにされた。またタイにおいては、周辺諸国からの大量の人口移動が生じており、他方でタイ経済の外国人労働者への依存が、タイ経済の中に完全に組み込まれてしまっている現状の中で、秩序あるタイ経済を作り上げていくために、今後いかに制度的・法的枠組みを整備じていくか検討される必要があると考えられる。タイにおいては、国際労働機関所属の研究員や、現地で本研究と同じようなプロジェクトを遂行している数人の研究員と討議をすることができ、大きな成果を得ることができた。 従来、人の移動と言えば主に労働力の移動で、研究も労働移動の枠組みで捉えられていた。しかし現実を見てみると、どこの国においても人の移動に関しては、完全に自由な移動ではなく、多くの制約を課しているのが現状である。特に非熟練労働者に関してはそうである。しかし最近の世界全般の少子化社会から労働者不足感が蔓延している状況において、世界各国において必要とされているのは、多くの場合、非熟練労働者であると考えられる。しかも雇用期間も単なる出稼ぎ的な短期ではなく、比較的長期にわたって雇用されるケースが多くなっている。この場合、子供の教育あるいは現地社会との共生(例えば国際結婚等)さらにはキャリア志向から非婚の増大が非常に重要になってくる。 今回の実態調査において、このような分野において、十分な調査が残念ながらできなかった。これは、次年度に残された課題である。全体的に見てみると本プロジェクトは計画通りに進んでおり、次年度においても着実な計画の遂行が期待される。
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