今年度は、研究期間の最後の年として研究の総括の意味を込めて、2011年の3月にニューオリンズで行われたUAA学会で、「Migration and the medical markets in Japan」という題目の下で、研究発表をした。報告では、積極的に受け入れることで日本の医療従事者の絶対的不足を満たすだけでなく、医療改革・医療ツーリズムの発展さらには日本社会の国際化の進展に繋がるので、できるだけ障害を低くして、受け入れを促進するべきであると主張した。 人の国際間における移動に関しては、従来から「brain drain(頭脳流出)」の問題として議論されているが、医療従事者の移住の問題もこれに当たる。今日でも発展途上国における貴重な医療従事者が外国に移住することには問題があると指摘する研究者も多い。日本においても言葉の問題、看護や介護の質の低下を懸念して、フィリピンやインドネシアから医療従事者を受け入れることに反対の声も大きい。 しかし一方で、経済学の比較優位の原則から言うと、高い収益を求めて移住したり、外国から相対的に低いコストで医療従事者を受け入れたりする便益には計り知れないものがある。報告では、外国から医療従事者を受け入れる便益のほうが、コストを上回ることを強調して、受け入れ政策を促進するべきであると主張している。今後、高齢化が進んで看護師や介護士の需要の増大が見込まれ、国内だけでその需要を満たすことは不可能と思われる。むしろ受け入れを促進して、医療業界における国際化を進めることが、医療ツーリズムの振興にも寄与すると思われる。今日、日本社会は、長い経済停滞から閉そく感に包まれているが、今こそ広い視野の下にオープンな政策をとることによって、将来の可能性の拡大に努めることが求められている。 ライフスタイルへの影響については、特に女性を取り巻く環境が大きく変化して、女性が家庭に留まらずに、移動あるいは社会進出が可能になってきた。この背景には女性を取り巻く労働環境や女性の社会進出を許す「社会規範」が形成されてきていることがある。このような環境変化がどうして起こってきたか、さらにはそのような環境変化の中で、家庭の役割あるいは夫婦の協調がどのように維持されるかを進化論的・ゲーム論的アプローチから著書『夫婦間の協調と家族の和』勁草書房、2010年にまとめた。
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