研究の全体構想は、動態的変化が著しい市場において、衰退・融合・新規各市場の効率性が担保されるか、効率性が歪曲されるとすればどのような形で現れるのか等について検討し、移行過程の市場特性に関する理論的・実証的示唆を得ることである。初年度である平成20年度は、「衰退・融合が進む市場の効率性に与える影響の検証」の一環として、デジタル化の進展が進行中(=放送)の産業に与える影響について検討を行った。 研究では、デジタルテレビ(DTV)の属性に対する消費者選好を表明選好法により分析し、新機器(ハード面)やコンテンツ(ソフト面)に高い価値を置く消費者がどのような選択行動をとるかについて検討した。得られた結果は以下とおりである。 (1)消費者は、DTV 購入に当たってハード面の要因だけでなく、ソフト面の要因にも影響されるという間接ネットワーク外部性が確認される。 (2)DTVの購入に当等たってハード・ソフト両面で、放送サービスや通信サービスに対して高い価値を有している消費者の方が有意に高い傾向がある。 (3)デジタル放送サービスの直接的なメリットである画質やサービス開始の有無は、一般消費者と通信放送サービスに高い関心を持つ消費者との間で有意な差は観察されない。 米国では2007年に終了予定だった移行期間を2度も延長した経緯がある。日本においても2011年に移行がスムーズに進むかどうかは受信機の普及動向にかかっているが、もし普及が進まないとすると、本稿で述べてきた消費者便益のみならず社会全体の便益をも低下させることにもなりかねない。その意味でも、デジタル化への転換過程を今後とも注視していく必要がある。
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