本課題では、4年の研究期間内全般にわたり動態的変化が著しいメディア市場をとりあげ、市場の競争状況およびその変化の動向を経済政策の観点から実証的に把握することとしているが、期間中の平成22年度に、約60年ぶりに通信・放送の法体系を大幅に見直すこととなる放送法等の改正が行われたため、本年度は諸外国、特にドイツの放送規制制度を参考に、日本における規制制度の在り方について考察した。 ドイツの放送規制制度では、KEKが視聴率に基づく集中規制を行っており、同時にALMが番組内容に関する地域性・多元性・多様性の確保に配慮するなど、視聴者市場における「質」と「量」の二面性を考慮した規制が行われている。さらに連邦カルテル庁が広告市場に関する集中度規制を行うことで、視聴者市場を規制するKEKと役割分担しつつ「市場の二面性」にも配慮されており、バランスのとれた仕組みとなっている。 一方、統一的に放送市場を監督する機関がない事の弊害や市場を静態的にとらえるような対応により弊害も生じてきている。日本においてもこうした事例を参考に、産業的側面を重視する方向に転換する場合の意見多様性確保の仕組みや、放送を含むメディア市場全般の動態的市場における競争政策の判断、更に規制当局相互の連携の仕組みについて、バランスのとれた制度設計が必要となるだろう。更には、公共放送事業者によって開始される「大きな影響を与える新サービス」に関する事前評価(市場影響と公共的価値の比較考量)実施のような仕組みを講じている状況に鑑み、市場化と公共放送に対する方向性を検討していく事の重要性も、我が国においても高まっていると考えられる。
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