医療制度は市場機構と同様に、資源配分と所得配分を規定する社会的な仕組みである。医療分野においては様々な公的規制や制度が存在し、それら各種の規制や制度によって一国の医療制度は成立している。本研究の目的は日本の医療制度を取り上げ、その非市場的な資源配分方法による医療分野の調整機能を実証理論的および政策的観点から考察することである。その研究課題の一つは個々の規制や制度による影響を通じて、総体として医療制度がどのように医療サービスの需給を調整しているのか、つまり、総体としての医療制度を通じて非価格による割当(rationing)がどのように機能しているのかを理論的に明らかにする枠組みを構築することである。これは医療制度の分析フレームワークを追究する試みである。第二の課題はその新たな分析フレームワークを踏まえて、日本の医療制度の在り方に大きな影響を与える現行の医療費適正化計画を含む医療政策を検討することである。医療政策は高齢社会のわが国にとって、医療サービスの効率性や負担およびアクセスの公平性の問題に係わると同時に、日本の医療制度の在り方に一定の方向性を与えるという意味で重要である。医療制度は市場機構と同様な役割を果たしているが、その手法には大きな相違がある。そのため、医療制度の分析フレームワークの構築が理論的な観点からのみならず、公共政策的な観点、つまり医療制度改革という観点からも要請されている。
|