「人的資源」と「経済発展」との相関性は強いと研究で証明されているが、人的資源の開発が活用できていない途上国は少なくない。経済発展の実現には経済的要因である労働力や資本、土地、物的資源を効率的に利用できる質の高い「人的資源」の存在が最も重要である。経済的要因が不足していても人的資源が豊かであれば、経済発展の可能性は高い。日本はその条件にあったが国内人的資源を有効活用し経済発展を実現した。この経験が日本の海外援助に深く影響している。 日本は、アジア諸国の工業化の開始に必要な経済基盤の発展に向けた大規模援助の他、各種の政府・財団・民間機関が担当して人的資源の育成にも巨額な援助協力を実施してきた。しかし、帰国者の貢献に関する学術的な実証研究は国内外では実施されたことがない。 本研究の目的は、日本で教育・研究・研修を受けたスリランカ人が帰国後、本国の経済社会発展にどのような貢献をしているのかを理論的かつ実証的に明らかにすることである。また、諸外国で育成された人的資源と比較しながら、長所的・短所的要因および問題点も理解したい。 1965年から現在まで日本の巨額な資金援助で数千人ものスリランカ人が25業種以上の現場で研修を受けた。現地調査で明らかになった長所的・短所的要因を以下にあげた。長所的要因として、親しみある日本文化、分かり易い研修制度、積極的な技術移転、実用的な研修と教育、道徳的な支援、留学生に対する生活支援と教育研究の充実、日本の文化・社会的価値観、高い帰国率、帰国者の職場での成功などである。短所的要因として、日本で教育された人材に対する消極的見方、コースワークがないこと、一般化した入学試験・成績評価がないこと、厳しい規則、柔軟性がないこと、教職員との個人的繋がりの重要性、教育とプライベートとの不釣合いなどである。本年度はそれらのことに関する具体的な現地調査を実施する予定である。
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