研究概要 |
財・サービス市場や労働市場の理論的分析において,企業間または産業間における意思決定の順番については従来与件として扱われ,どちらかが先手,あるいは同時に行なわれる状況が想定されてきた。本研究では,財・サービス市場における現実に観察される賃金決定の時間差について,企業別組合をもつ企業において,目的関数と報酬制度が異なる複占モデルを構築して理論的な分析を進めてきた。 研究分担者との研究打合せや,熊本,福岡,佐賀,神戸,大阪,彦根,東京,札幌,小樽での資料収集を通じて研究を進めた。そして,Hamilton and Slutsky(1990)のObservable Delays Gameを援用して得られた暫定的な結論として,企業が雇用量を一方的に決定できる状況(right to manage model)での独占的組合モデルにおいて、以下のようなことが明らかになった。 (1)公企業と民間企業が財・サービス市場で競合する混合寡占市場において,公企業は,先行業績と同様に伝統的な報酬制度を採用し,一方,民間企業は利潤の一定比率を労働組合に分配する報酬制度(Profit-sharing制度)を採用するとみなして分析を行なった。結果として,報酬制度としてProfit-sharing制度を採用する民間企業が,公企業に先駆けて賃金決定を行なうことが内生的に生じることが確認された。この結果は,公企業の報酬制度がProfit-sharing制度であるか,伝統的な制度であるかには依存しないことも明らかになった。 (2)また,金融市場とProfit-sharing制度に関わる予備的な研究として,マクロ経済を想定した場合,Profit-sharing制度は経済を不安定化させる可能性があることが確認された。 上記の(1)の内容については,第11回非営利・協同セクター研究会(兵庫県立大学,2008年12月19日)において報告し,また,大分大学経済論集にまとめられている。また,(2)の内容については,滋賀大学Working Paperにまとめられている。
|