研究概要 |
財・サービス市場や労働市場の理論的分析において,企業間または産業間における意思決定の順番については従来与件として扱われてきた。本研究では,財・サービス市場における現実に観察される賃金決定の時間差について,企業別組合をもつ企業において,目的関数と報酬制度が異なる複占モデルを構築して理論的な分析を進めてきた。また,現実経済における企業のタイミングの決定について,企業にアンケートを実施した。 本年度は,東京,神戸,福岡,松山,大分での学会,研究会参加,資料収集,研究打合せを通じて研究を進め,以下のようなことが明らかにならた。 (1)日本における政府系金融機関のような公企業の場合,民間企業の給与に準拠して給与が決定される状況,すなわち,賃金決定について公企業が後手番の状況であり,かつ,日本の企業の報酬制度が民間企業は利潤の一定比率を労働組合に分配する報酬制度(profit sharing制度)と見なせるならば,公企業め完全民営化が望ま冒しい状況もあるという政策的含意を得ることができた。 (2)上記(1)について,現実の経済でよく見られる公企業の部分民営化が考慮されていないため,モデル設定上,部分民営化比率を明示が困難であるという問題が生じた。そのため,分析対象を同時手番の状況とし,手続き上,サブゲーム完全均衡を導出する方法を用いずに,最適部分民営化比率を求める簡潔な方法を検討した。逐次手番の設定である上記(1)のモデルに適用可能かどうかを探ることが課題として残された。 (3)企業アンケートとして,企業の新製品および発売のタイミングを決める要因および利益との関係を明確にすることを目的とし,「新製品開発および導入のタイミングに関する調査」というタイトルで実施した。東証1部上場企業を対象とし,経営戦略の方針,行動,成果,財務などの23項目についてアンケートし,約60社から回答を得た。 上記の(2)の手法については,海外の査読付き雑誌に投稿中である。
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