本研究においては、経済格差の拡大が経済成長に及ぼす効果を検討し、どのような影響を経済活動に与えるのかという点に焦点をあてた議論が行われる。なお研究を進めていく上で考慮される重要なポイントは、先進国の抱えている少子化という状況の下で、できるだけ経済成長を阻害しないような再分配政策のあり方、つまり税制の設計をどのようにするべきかという点である。研究初年度にあたる当該年度においては、少子化現象がもたらす状況を適切に把握するため、少子化が現行の税制のもとで税収入に対して与える影響について考察を行った。分析では日本の大都市をとりあげて、2010年から2035年の期間において市民税を対象としたシミュレーションを行い中長期的にはすべての都市において人口が減少することによって減収となるものの、短期的には人口が減少したとしても高齢化に伴って所得階層の高い人が増加することによって増収となる都市があることを示した。このことは少子化現象の財政収入に与える効果が多面的であることを示している。また日本の厳しい財政状況を念頭に置き、財政の維持可能性を高めるための異なる増税手段について経済行動に与える効果について分析を行った。分析手法は生産構造、消費者行動を規定し、消費税の増税と、労働所得税の増税を行うケースを取り上げたシミュレーション分析である。その結果長期的には消費税の増税が望ましいものの、短期的には労働所得税の増税が望ましいケースがあるという結果をえた。この点は実際に政策を実施する際に念頭におく計画期間を考慮すると、消費税によらない手法が望ましい場合があることを示した点で重要である。
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