本年度は大きく分けて次の二種類の分析を行った。第一に、昨年度の分析で明らかになったInternational Comparison Program(ICP)2005ラウンドの情報に基づくデータ修正がもたらすミスアラインメント推定の変化について、世界の百力国以上をサンプルに変化の分解分析と要因分析を行った。分解分析ではミスアラインメントの変化をデータ修正によって生じた部分と、パラメター値変化による部分に分解し、サンプル国を様々なグループに分けることで明確な傾向が見られるか否かを探った。その上で変化をもたらした要因として測定に起因するもの(ICPベンチマーク国であるか否か、或いはマクロ経済データの質等)、及びマクロ経済のパフォーマンスに起因するもの(一人当たり実質GDPの初期値や成長率、経済開放度及びインフレ率など)を想定して回帰分析を行った。 第二の分析は、実質為替レートと一人当たりの実質所得の関係を時間の軸に沿って検証することによって、過去30年間に先進国と発展途上国(特に新興国)との間に「分離と再結合(decoupling and re-coupling)」が生じていることを明らかにし、そのような構造変化を生み出した要因の特定を試みた。実質為替レートと一人当たりの実質所得の間には有意な正の関係が存在していることは従来から広く知られており、既存研究では経済発展度には関係なく世界各国のデータをそのまま当てはめることで両者の関係が議論されてきた。本研究ではそのような従来の手法に大きな問題があることを示した。併し分離と再結合を生み出している要因については明確な結論を得ることが出来なかったため、今後の研究で追求したい。以上の成果を学術論文にまとめ、現在改訂投稿のプロセスにある。
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