アジア通貨危機の事例の分析により、危機国の資本取引規制のあり方、特に80年代末以降に行われたクロスボーダーの銀行間信用を含む不安定性の高い資金に対する量的な流入規制の撤廃や流入促進措置が危機の発生や深刻度に大きな影響を及ぼしたと見られること、自由化措置とともにあるいは資金流入増大への対応策としてとられた準備率、為替ポジション規制等の市場ベースの規制強化が持つ資金流入抑制効果には限界があったと見られることが認められた。他方、銀行の対外借入に許可制等の厳しい規制を課していた国・地域は危機前に短期資金の大量流入を経験せず、深刻な危機を免れている。80年代以降の新興国・途上国の資本取引自由化の背景にあったと思われる資本取引自由化の理論的ベネフィットの確たる証拠はないが、IMFは全般的に、米国は特定の国・地域を対象に、資本取引自由化を推進してきたと見られ、これが十分なリスク管理のないままに新興国等が資本取引自由化を進める背景の1つになったと考えられる。但し、アジア危機以降、特に近年の新興国への資金流入増大を背景として、IMFは一定の条件の下に資本流入規制を容認する現実的な考えに転換しており、国際的な認識に変化の兆しも認められる。
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