欧米諸国の主要株式市場における個別銘柄ロング・ショート投資戦略としては、過去短期(数日〜1週間)・長期(数年)の過去リターンに基づく個別銘柄コントラリアン(逆張)戦略及び中期(数か月〜1年)の過去リターンに基づくモメンタム(順張)戦略が高収益を生むという実証結果が得られている。一方、日本株式市場については、過去リターンの計測期間が長・中・短期すべての場合においてコントラリアン戦略が有効であるが、月次リターンを用いた詳細な分析においてはラグ次数が12倍数の場合に例外的にモメンタム戦略の有効性であるという年次季節性が先行研究において報告されている。本研究の初年度においては、まず、既存研究で報告されているこれら様々な周期のリターンに基づく日本株コントラリアン・モメンタム戦略の収益がリスク・ベースの資産価格理論によって説明されるのかを検証した。具体的には、各戦略の月次収益時系列を過去株価データより算出し、Fama-French 3ファクター・モデル(標準的な実証マルチファクター・モデル)に加えて、市場全体レベルでの流動性変動ファクターを含む拡張Fama-Frenchモデルでリスク調整しだ後の平均リターンが有意にゼロと異なるかの検定を行った。結果として、Fam-French 3ファクター・モデル、拡張Fama-Frenchファクター・モデルは棄却され、各戦略の高収益はこれらのモデルではリスクの対価としてぼ説明が困難であることが明らかになった。次に、各戦略月次収益への戦略ポートフォリオに含まれる個別銘柄リターンの貢献に分解したところ、年次季節性については月中に利益発表のあった銘柄のリターンの貢献による部分が大きいことが明らかになった。さらに、過去リターンと流動性尺度を同時に説明変数として含むFama-MacBethクロスセクション回帰の手法により、モメンタム収益年次季節性が個別銘柄流動性の年次季節性を代替的に捉えているという仮説を検定したところ、これについては棄却された。これまで得られた結果は全体として日本株式市場の情報効率性を否定するもので、むしろ投資家の利益情報等への非合理的な反応といった行動ファイナンス的説明と整合的である。
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