平成22年度については、平成20年度に整備を行ったデータに基づき、企業金融に係る仮説を検証するための論文作成を行った。まず、売掛金や手形のやり取りである企業間信用の有無、期間やそれ以外の与信条件が、どのような要因によって決定されるかを推計した論文を作成し、ディスカッションペーパーとして公表した。この論文は、様々な理論文献によって挙げられてきた企業間信用に関する仮説を網経的に実証する点で、これまでにない貢献である。 次に、金融危機時に導入された緊急信用保証制度について、制度が企業の資金繰りやパフォーマンスに与える影響を検証する論文を、小野有人日本銀行シニアエコノミストや安田行宏東京経済大学准教授とともに作成した。金融機関と企業の密接な関係は、通常であれば企業の資金繰りを円滑にする効果を持つ。しかしながら、緊急保証制度が提供されている状況下では、密接な関係によって得られた情報を基にして、金融機関が事後的なパフォーマンスの悪化する企業からプロパー融資を引き揚げるという機会主義的な行動を取っていることが分かった。 更に、新規論文の執筆にとどまらず、従来執筆した、1990年代後半から2000年代の初めに大規模に導入された特別信用保証の効果に係る論文を、レフェリーのコメントを踏まえ改訂・再投稿する作業を行った。その結果、当該論文は英文学術誌に掲載された。信用保証制度の効果に係る一連の論文は、国内の研究者のみならず、海外、特にアジアの経済学者や実務家から、従来にはない貢献として高く評価された。
|