研究概要 |
その便益が国境を越えて漏出する国際公共財を自発的に供給している政府を想定して,その供給量や経済厚生と所得や生産要素の分布の関係を研究し,以下の結果を得た. 第一に,標準的なH-Oモデルに国際的な公的中間財を組み込んだモデルを用いて, Warr (1983)による議論を嚆矢とする公共財の中立命題の成否を再検討した.分析の結果,公共財の中立命題は必ずしも成立せず,移転のパラドクスが生ずる可能性が明らかとなった.さらに,その背後には,貿易理論の基本的な命題であるリプチンスキー定理が大きな影響を与えていることを示した.このことは,国際的枠組みで公共財の自発的供給の帰結を考える際には,先行研究では十分に考慮されてこなかった複数財,複数生産要素の存在が重要であることを示唆する. 第二に,地球規模での環境汚染のようないわゆる「負の公共財」が生産活動に伴って発生している状況において,所得や生産要素の移転政策が,汚染の水準や経済厚生に与える影響を考察した.特に,政府が環境改善策として資源保護政策もしくは汚染除去政策を採用している場合を区別し,所得や生産要素の移転が与える影響の差異に注目した分析を行った.その結果,政府が資源保護政策を採用している場合にはShibataの第二中立命題が成立しうること,汚染除去活動を環境政策として採用している場合には移転のパラドクスが生ずる可能性を排除できないことが明らかとなった.これらの結果は,国際的公共財の供給を促進するための国際的援助活動の実効性が政府の採用する政策に依存して異なることを示唆する.
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