研究概要 |
本年度は以下の二つの研究成果を得た. 第一に,多数の経済主体を想定して,公共財の供給水準と資産(所得)分布の関係を,所得分布に関する優数列(Majorization)の概念を用いて特徴づけた.具体的には,経済主体が同質的な場合,ある所得の分布が他の所得の分布を弱い意味でsubma jorizeすることと,公共財の総供給量が減少しないことが同値であることを導いた.また,経済主体が異質である場合に多変量Majorizationの概念を応用した特徴づけを行なった.本研究は公共財の自発的供給量を所得格差の理論で用いられるローレンツ支配基準と対応させる形式で考察したところに特徴がある.加えて,公共財に対する選好や公共財供給の限界費用に関する情報が正確に知らていない場合でも,所得分布の変化が公共財の自発的供給量に与える影響を推論できること明らかにした点で、応用可能性を持つものである. 第二に.一つの輸入国に対して多数の輸出国が不完全競争財を輸出しているような状況を想定して,環境問題の改善と自由貿易の両立可能性と自発的な国際的な援助の可能性を検討した.より具体的には,不完全競争財が消費国において廃棄物を発生させ,その処理費用も考慮して輸入国は輸入関税を戦略的に設定している場合に,輸出国が自発的に廃棄物処理に関する技術援助を行なう可能性を検討した.検討の結果,輸出国は輸入国の関税引き下げを期待して自発的な技術援助を行なう誘因があるものの,輸入関税は輸出国にとって一種の負の公共財としの側面を持つので,援助を実施する国の数や援助の水準はパレート非効率な水準に留まってしまうことを論証した.本研究は,公共財の自発的供給の理論を貿易論に適用しようとする試みの一つと位置づけられ,環境や廃棄物問題と自由貿易の両立という極めて今日的な課題への一つの視点を提供することがでさた.
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