研究概要 |
経済成長が著しいものの所得水準そのものはなお低水準にある新輿国と,持続的な高い経済成長は望めないものの既に高い所得水準に到達している成熟国が混在している経済における環境政策のあり方を,国際公共財の自発的供給と生産要素の分布と言う視点から捉えて考察した.工業製品の生産活動に伴って越境汚染が発生するような静学的2小国2財2要素貿易モデルを考え,(1)そこでの非協調的な環境政策の帰結,(2)ある国おける生産要素賦存量の増加が他国の厚生水準に与える影響,を検討した.政府による環境政策の手段としては,環境汚染を発生させる財に対する生産物税と,環境汚染を除去,軽減するような公共サービスの供給を想定した.分析の結果,(1)均衡においては世界価格で評価した所得が大きい国がより厳格な環境政策を採用すること,(2)初期に非協力均衡にあるとして,生産要素の外生的な増加は,所得の増加によって環境水準に対する家計の評価が上昇して環境政策が強化される効果と,要素賦存量の変化が財の生産量に影響を与えるリプチンスキー効果の大小関係で決まること,が明らかになった.これらの結果はCopeland and Taylorを始めとする先行研究と整合的である.さらに,初期において緩やかな環境政策を採用している国(低所得国)において,他国(高所得国)の厚生水準に負の影響を与えるような工業製品の生産増をもたらす要素賦存量の増加を考え,そこでの二国間援助政策の厚生効果を考えた.その結果,低所得国にとっては援助を受けずに経済活動を行なった場合と比較して厚生は改善され,高所得国にとっては低所得国において要素賦存量が増加する以前よりも高い厚生水準を得ることができるという点で両国にとって受入可能な援助政策を例示した.
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