研究概要 |
株主権利保護に関する法制度改革の影響を検証するため,平成20年度はエクイティ・ファイナンスを切り口とし,主に以下の2点について実証分析を進め,現在,研究成果の発表に向けて準備中である. 1. 2000年代のエクイティ・ファイナンスの動向について 日本でのエクイティ・ファイナンスに関する先行研究では,1980年代の場合,発行企業の株価に正の影響を及ぼすことが確認されている.ところが,2003年〜2007年7月までの時価発行増資を対象に分析を行ったところ,発行企業の株価に負の影響を及ぼすとの結果が得られ,米国市場と同様な傾向にあることが確認された.さらに,第三者割当増資が敵対的買収防衛策として活用されている可能性など株式市場の最近の動向に関する詳細な実証分析を行うため,平成21年度はデータ整理を進めてきた. 2. MSCB発行の経営者側の動機について 2004〜2005年にかけて盛んに発行されたMSCB(Moving Striking-price Convertible Bonds)について,発行の動機を分析するため,発行決議時の株価変化について検証した.通常のCBとMSCBを比較した場合,ともに、イベント日当日から翌日の2日間の超過収益率は有意に負となっている.また,通常のCBとMSCBとの間で、超過収益率に有意な差は確認されなかった.発行決議があった期の業績パフォーマンスは,コントロール・ファームとの比較で,通常のCB,MSCB共に有意な変化を確認することはできない.つまり,発行決議が近い将来の業績のシグナルとなっている可能性を確認することもできない.この点は,米国の場合,業績パフォーマンスの悪化が確認されていることとは異なる結果である.
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