研究概要 |
平成21年度には,株主権利保護に関する法制度改革の影響を検証するため,主に以下の2点について実証分析を進め,研究成果の公表を行った. 1.MSCB発行の動機について 2004~2005年にかけて盛んに発行されたMSCB(Moving Striking-price Convertible Bonds)について,既に平成20年度に発行時の株価への影響について分析を実施したが,さらに発行の動機を分析するため,発行後の資金支出の動向を,他のエクイティ・ファイナンスの手法と比較した.その結果,MSCB発行企業は,時価発行増資実施企業やCB発行企業と比べ,負債返済に積極的な傾向にあることを確認した.また,資金調達実施から3期後の資本構成の変化を検証したところ,MSCB発行企業のみが有意に負債比率が低下している.さらに,MSCB発行から3期後の企業価値の変化を分析したところ,負債返済に積極だった企業ほど,企業価値が改善する傾向にあることを確認した.このことからMSCBの発行は,負債負担を軽減して資本構成を改善し,企業価値を改善させる際に有用であると推測される. 2.私的整理による企業再建の効率性について 大口貸出先の倒産処理が銀行自身の経営を揺るがしかねない局面では,私的整理による企業再建は,銀行経営者のモラル・ハザードによって非効率になることを実証分析によって明らかにした.具体的には,日本で1993年1月から2004年1月にかけて行われた債権放棄を分析対象とし,効率的な企業再建がなされたか否かを検証した.プロビット分析の結果によれば,メインバンクのリスク・エクスポージャーが高い,すなわち,メインバンクの信用力への影響が大きい大口貸出先であるほど,債権放棄実施後に再破綻する傾向にあることが確認された.さらに,貸出先から債権放棄の要請があった時点に着目した株価イベント・スタディを実施したところ,メインバンクのリスク・エクスポージャーが高いケースでは,債務者企業の株価は有意に上昇する一方で,メインバンクの株価には負の影響が生じている.つまり,大口貸出先に対する破綻処理は銀行にとって有益なものとはならないと市場が評価していると考えられる.
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