研究概要 |
平成22年度には,株主権利保護に関する法制度改革の影響を検証するため,主に以下の2点について実証分析を進め,研究成果の公表を行った. 1. 私的整理による企業再建の効率性について:実証分析結果の精緻化債権放棄対象企業のみを抽出した分析は,法的整理が選ばれなかったという点で,財務破綻企業の中でSample selection biasが生じている可能性がある.この点を考慮し,Heckman Sample Selection Modelによる推計を行った.その結果,メインバンクのリスク・エクスポージャーが高いケースほど,債権放棄実施後の再破綻の可能性が高いこと,また,メインバンクの不良債権比率が高い場合ほど,再破綻の可能性が低くなることが,改めて確認された.また,メインバンクの破綻先企業処理に影響を及ぼす可能性がある指標として,新たに自己資本比率を加えたが,その効果を確認することはできなかった. 2. MSCB発行が資本構成と企業価値へ及ぼす影響の検証MSCB発行企業は.他のエクイティ・ファイナンスの手法と比べ,発行後の負債比率の低下幅が統計的に有意に大きい.このことから,MSCB発行企業は資本構成の改善を意図している可能性が高い.さらに,調達資金の支出動向をみると,資本支出にせよ,負債圧縮にせよ,発行後の早いタイミングで資金を支出した方が,発行前と比較して企業価値は改善する傾向にある.そして,資本支出よりも負債返済で支出した方が,その傾向は強くなる.しかも,発行後の支出への積極性の違いは,発行時の株価への影響の差異として既に株価に反映されている.これらの分析結果を考慮すれば,MSCB発行は企業のタイプの違いを開示する何らかのシグナリング機能を有し,過剰負債に悩む企業が資本構成改善を意図する際に役立つ可能性があると考えられる.
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