2000年頃から急増した投資ファンドの投資の回収(エグジット)行動に焦点を当て、わが国のM&A市場や金融市場に与える影響を計量的に検討することが本研究の当初の目的であった。 平成21年度までにレコフ社のM&Aデータベース(マールM&Aデータ)を用いて、投資ファンドのM&A投資から回収までを把握する2次データベースを作成する作業を行ったが、株式投資や債券投資等の標準的な証券投資と異なり、投資ファンドの収益率は情報開示が乏しいため、公開情報だけでは把握に限界があった。当初は、会社更生企業に対する再生スポンサーとしての投資のケースを対象とすることが基本方針であったが、サンプル数を増加させるため、M&A一般まで分析対象を拡大した。そして、研究実施の最終年度である22年度に、M&Aで買収した側の企業の会計報告で観察される「のれん(goodwill)」に注目し、買収価格の実勢を代理する尺度とした。この尺度は、わが国のM&Aの会計制度でなければ把握できない特殊なものであり、とくに、既存の研究が株式上場会社を対象としているのに対し、非上場会社のM&Aを分析できる点が大きな貢献であると考えられる。 分析期間は、最終的に、2002年から2009年末までを対象とし、買収側企業(上場会社)の有価証券報告書のキャッシュフロー計算書注記から買収に伴う「のれん」(および「負ののれん」)データを収集し、多面的な計量分析が可能なデータベースを22年度内に完成した。最終的なデータ数は、非上場会社が買収ターゲットのケースが1486、上場会社ターゲットのケース125となった。当データベースに基づいて、ファンドが買収側または売却側に関与しているケースの特色を計量的に分析した。22年度中は、記述統計的分析にとどまったが、現在、トリートメント回帰分析を利用した計量経済学的分析を行っており、本年中に学術雑誌への投稿を行う予定である。
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