わが国で中小企業に対する貸出技術について考察されることは従来殆どなかった。わが国で中小企業に対する貸出技術に関する研究やリレーションシップ貸出に関する議論が始まる契機となったのは、おそらく2003年の金融審議会報告書「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」の発表以降であろう。しかし、わが国のリレーション貸出の特徴が明らかにされているわけではない。 わが国の中小企業貸出においては、銀行と中小企業の取引期間が諸外国に比して超長期であることや、不動産担保が要求されることなどが、特色として見られる。これらはBerger and Udell(2002)によるリレーションシップ貸出の概念ともやや異なるものであり、わが国の貸出技術の分類には独自の方法が必要である。わが国のリレーション貸出と不動産担保の関係について、その歴史的背景から考察し、わが国の中小企業貸出技術研究の一助とした。 中小企業の貸出技術についてBerger and Udell(2002)による分類と筆者の考える分類を紹介し、わが国の銀行と中小企業の継続的関係が超長期であるという問題意識について述べる。貸出技術と不動産担保について考察し、不動産担保の制度には江戸時代からの長い歴史があり、特に地方で顕著であったという歴史的経緯を示す。さらに、この歴史を支えたものに根抵当権と銀行取引約定書という法律面での制度の存在が銀行と中小企業の超長期にわたるリレーションシップを支えてきたと思われる。ソフト情報を得るために長期継続的な関係が必要なリレーションシップ貸出を財務諸表準拠貸出と不動産担保貸出が支えてきたとも言えるし、逆に不動産担保の制度ゆえに銀行と中小企業の間に超長期の関係が続いているとも言える。
|