研究の成果は1論文の公表、2学会報告、の2点である。まず1については、共著で『季刊社会保障研究』第44巻3号に論文を公表した。論文では近年のグローバル化による賃金格差拡大と少子高齢化による社会保険料負担増大で、現役の低所得世帯が経済的に困窮していることに注目した。わが国の社会保険料は賦課方式であり事実上税と同じであることを考えると、所得税・住民税と社会保険料の負担は本来一体的に管理されるべきである。論文ではその手段として、オランダやスウェーデンの制度を参考に、税額控除を活用することを検討した。そして、税額控除の活用が現役の低所得世帯の社会保険料負担を軽減する手段として有効であることを、シミュレーションで示した。 次に、2では第65回日本財政学会で報告を行った。報告では近年公表されたアメリカ大統領諮問委員会による税制改革案の概要を論じた。ポイントは、グローバル化で富裕階層や企業への課税が困難となる一方で、格差拡大による所得再分配が重要となっていること、さらに高齢化の進行で財政需要が増大すると考えられることである。すなわち、格差拡大や高齢化への対応のための財源がますます必要となる一方で、企業や富裕層からの課税が難しくっている。大統領諮問委員会が提案した税制はそうした問題に対処するヒントを与えている。すなわち、課税ベースを拡大して税率を極力低く保ったまま多額の税収を確保する一方で、それによって増大する低所得者の税負担については税額控除の活用で軽減する改革を提案している。報告では、その提案内容と意義について論じた。
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