本研究では、税制の実証パートと理論パートに分けて分析を行った。平成22年度の実証パートの研究では、税と社会保障の負担分析を地方税制・地方財政の実態に拡張して分析を行い、一橋大学の田近栄治氏との共著として論文を発表した(「個人住民税改革における地方税源の拡充」)。そこでは、個人住民税の課税ベース浸食が家計の税負担や地方自治体の財政に及ぼす影響について論じた。個人住民税の課税ベース浸食が住民に対する応益性の欠如を生み、さらに地方自治体の税収ロスを引き起こしていることを、データを通じて明らかにした。また、それに付随する研究として、地方税における企業課税のあり方を論じた(「地方の法人課税はなぜ望ましないか」)。我が国の地方税制は企業課税の比重が比較的大きくなっているが、そうした実態がもたらす問題点やあるべき改革の方向性について検討を行った。これらの一連の研究成果は2011年3月に企業活力研究所における研究会で報告を行っている。 一方、理論パートでは、最適非線形所得税の時間整合性問題を検討した。政府は時間が経過すると所得再分配を強化する性質を持ち、そうした政策は短期では望ましいが、長期では家計との駆け引きを生むため、社会厚生をむしろ落としてしまう可能性があることが示された。分析成果は2011年3月の一橋大学でのワークショップで報告を行った。 研究成果については今後、すみやかに雑誌への投稿、学会報告などを行う予定である。
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