本年度は、ビュルテンベルクの産業振興政策の代表部である「工商業本部」を主導したシュタインバイスの経済政策思想に注目し、同時代の営業自由導入をめぐる議論、中間層保全論、工業化推進・反対論のなかに彼の思想を位置づけるべく、シュタインバイスの著作・報告書などの読込と分析を行った。その結果明らかになったことを要約すれば、次の通りである。 経済危機が進行する三月革命期のビュルテンベルクでは、営業自由の導入をめぐる長い論争のなかで、復古的な中間層保全論や急進化した手工業者からの要求が強まった。 産業振興政策の代表部である「工商業本部」を主導するシュタインバイスは、こうした思潮のなかで政策を構想し、ツンフト擁護の論陣を張った。だが、それは既存のツンフト制度の温存を求め営業自由の導入に反対したものではなく、ツンフトの存続を前提に、工商業本部の指導のもと、これを体系的な職業技術教育制度へと社団的に編成しようとするものであった。 シュタインバイスの立場は、営業自由の実現をひたすらに追求する経済的自由主義と復古的中間層保全論との中間に位置するものであったが、それは自由な社団的結合に基礎づけられた市民社会を理想とする自由主義派の思想に近似的なものであった。こうした職業技術教育を通じて手工業者の間にひろがる旧習への固執や伝統主義を打破し、もって彼らの経営的上昇を図ること、これがシュタインバイスの目指すところであった。自助のための支援、現場エリートの養成という言説は、シュタインバイスのそうした意図を端的に表現するものといえる。
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