(1)戦前における外国の失業保険制度についての評価が時代とともに大きく変化した事情について、社会局官僚、財界、社会政策論者等の各立場ごとに検討した。その結果、日本の論者が失業保険制度による財政支出の増加を危惧していたのに対して、欧州では生活保護(救貧法)のための財政支出を失業保険の掛け金収入によって削減できるという判断があったという歴史的文脈の相違を明らかにした。 (2)戦後の失業保険関係統計類等の整理・分析を実施した。これによって戦後の失業保険制度の数次にわたる大幅な変更をもたらした収支事情を、被給付者ごと・地域ごとの特性にそくして明らかにすることができた。また戦前の失業保険類似制度(大阪市、日本労働総同盟等が実施)については収支関係を直接示す資料が得られなかったため、関連情報の収集・分析を進めた。 (3)戦後における失業保険と他の社会保険・生活保護との代替関係については、審議会・国会での討議記録を用いてその一端を解明した。これとの対比において、戦前の労働組合やマスコミでは、失業保険構想の中で各種社会保険や救護制度の負担軽減策として失業保険を評価する見解もあったが、官僚層にはその認識がなかったことを明らかにした。 (4)戦前期に失業保険制度を要求した社会階層について検討を進め、組織労働者および知識層がその主要な要求者であったこと、それに対して失業救済事業の主たる対象であり、失業問題が最も深刻であった日雇労働者層(および農村、植民地から大都市に移動したその予備軍)は就労機会の提供をもっぱら要求しており、失業保険制度にはほとんど関心をもっていなかったことを明らかにした。
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