3ヶ年の研究期間の最終年度として、研究の総括に向けて、以下の諸点の研究を進めた。 (1)日本と欧州諸国との失業保険制度についての政策理念の相違を明確にする実証研究を進めた。その結果、日本では失業保険制度は国庫と企業の負担増加として意識されたのに対して、生活保護・失業手当制度の普及が先行していた欧州先進国では、国庫負担の企業・労働者への分担化であったことを、主要国の財政負担状況も含めて明らかにした。このことによって、失業保険制度の赤字が欧州諸国では生活保護費の節約と表裏のものとして理解されていたのに対して、日本では財政の一報的悪化として恐れられ、それが失業保険制度導入回避の主たる理由となったという文脈が明確になった。 (2)戦後の日本の失業保険制度は、特定の国をモデルにすることなく、改正の必要性に応じて異なった国の制度を適宜導入した結果、国際的に特異な形となって今日に至っている事情について実証した。 (3)日本の失業保険は全国的制度は一律でも、運用の仕方が地方によって大きくことなっていること、その背景として職安所在地の労働需給関係、給付申請者に対する窓口指導のあり方の相違が大きかったこと、その相違は時代とともに縮小してきたこと等を実証した。 (4)短期雇用者への失業保険制度の拡充等、現在進行中の事態について検討を進め、この研究が歴史研究にとどまらない現代的意義を持つように努めた。
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