1990年代以降、グローバリゼーション圧力のもとで多くの分野で規制緩和が進んだ結果、経済的格差の拡大や生活の不安定化など様々な問題が噴出し、あらためてセーフティーネットを構築しなければならなくなっている現在において、政府による規制の意味と効果に関して再検討が要請されている。日本の産業政策においても経済的効果のみならずその多面的機能に関して実証的に検討する必要があろう。例えば、輸出振興政策の一部をなす輸出秩序維持政策における輸出カルテルの機能に関しても、対象業種に中小企業が多く含まれているものが多いこともあって不況期における社会政策的機能の如何に関して実証的にも理論的にも検討する必要がある。本研究では、以上の視点を重視しながら戦後日本の輸出振興政策全体を実証的に再検討しようとするものである。その方法としては、まず個々の業界にとって輸出振興政策が有した意味を確定する作業を行なう。その出発点として、最初に、独占禁止法の適用除外法である輸出入取引法の基づいたカルテル助成政策に関して、その主体となった輸出組合に対して調査を行ない、一次資料の発堀を行なう。従来このような研究は全く行われていないが、上述の問題意識からは、これは極めて重要な作業となる。 本年度は、昨年度実施した輸出組合全体に関する調査研究を踏まえて、引き続き輸出組合について資料調査を実施した。よりわけ、日本陶磁器産業振興協会に所蔵されている日本陶磁器輸出組合資料について2回にわたり資料の仮目録を作成した。なお、陶磁器輸出カルテルについてはこの資料を利用して研究論文にまとめる予定であったが、本年度中にはまとめ上げることは残念ながらできなかった。しかしながら、陶磁器輸出に関する貴重な一次史料について発掘し、その概要を公表出来たことは、戦後の輸出組合や業界団体の果たした機能について解明する第一歩として大きな意義があった。仮目録の抜き刷りを作成して全国の研究者に配布した。 また、陶磁器業界における資料保存意識を高めることう目的も兼ねて「日本の高度経済成長を支えた陶磁器輸出-日本陶磁器輸出組合関係資料の価値と保存の重要性-」を執筆した。この結果、振興協会では引き続き資料を保存することとなった。
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