8-9世紀のイタリア北部諸都市には、ランゴバルド時代以降の契約慣行や文書作成慣行が連続しており、書記notariusノタリウスが裁判集会文書だけでなく、多くの私文書(売却・譲与・遺言・交換他)を作成した。その際重要なのは、手早い筆記が可能な「新イタリア筆記体」というノタリウスの書体であった。ノタリウスは、9世紀後半の土地所有者と直接耕作者(自由農民)との間の農地契約も作成しており、農村でも文書作成が重要視されている。ノタリウスは王都パヴィアや司教座教会などで学び、書記としての技能を得たと考えられる。この意味で、文書行政を支える書記が、中世イタリア北部の都市と農村を結びつけていたといえる。
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