両大戦間期から1940年のドイツ経済について、「早生的新自由主義」の視点からアプローチし、現代経済史の新たな認識の枠組みを構築することが本研究の主題である。その際に、「ポスト大転換システム」の自由主義的類型をナチス経済に求める。以上の点に関して、本年は以下の研究を実施した。(1)1920年代ドイツのエコノミストに共有され、30年代の経済政策においてキー概念の一つとなる「均衡概念」をA.リュストウの「リカード派」のなかに確認し、ワイマール期にはこの理論的「共通の場」のなかで左右の経済政策思想の対話が可能であった点を明らかにした。(2)30年代の新自由主義思想の展開に関してはシカゴ・プランを想定した通貨制度の構想、および平時経済と戦時経済のジンテーゼとしての国防経済構想を分析した。(3)一方での通常の市場における競争秩序による制御、他方での擬制商品である労働・土地・貨幣の自由市場からの隔離と商品化の制御に、ポスト大転換システムの基本的特質を求めた上で、(1)社会システム論における文脈的制御の論理と競争秩序の接合を試みた。(2)「国民的労働秩序法」のなかに、完全競争のコンセプトによる労働管理の論理を発見した。(3)農地の脱商品化をはかった「世襲農場法」を分析した。(4)貨幣の商品化規制との関連では信用制度法の意義を検討した。(4)社会システム論を研究に導入する必要からドイツでの研究史を整理し、戦間期以後の研究におけるその有効性を明らかにした。(5)以上の作業を踏まえて、「市場とヒエラルキー」に団体による調整を加えた戦後西ドイツを、ポスト大転換システムの新たな類型として位置づけた。
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