研究概要 |
1.平成21年度には、19世紀前半プロイセン農業改革期のアムト・アルトールピンにおける農民の「木材権」(領主の農民に対する木材支給義務)の償却過程に関する事例研究を発表したが、平成22年度にはこの成果を踏まえつつ、領主の農民に対する木材支給(Holz-Wohltaten,Timber Beneficences)の歴史を、1650年から1850年の2世紀間にわたって、クールマルクの御料地全体を対象としながら考察した論文を作成し、英国サセックス大学で開催された農村史国際学会(Rural History 2010)で口頭発表した。この論文では、ドイツ・東エルベ地方の封建領主(グーツヘル)が、農民の賦役労働を搾取する大土地所有者であったばかりでなく、農民に建築・修繕用木材を供与する大森林所有者でもあったという新しい見方を(少なくとも御料地に関して)提起するとともに、とりわけ領主による木材の無償供与が農民による木材資源の浪費に結果したことを指摘した。口頭発表後、学術雑誌への投稿を目標に、この論文の加筆修正を行った。 2.プロイセン農業改革の過程で、それまで共有地や入会地などとして粗放的に利用されてきた広大な林野(放牧地・採草地・林地が入り混じった土地)が、所有面できちんと区画され、集約的・計画的に利用されるようになったことが従来の研究で指摘されているが、この過程が、当事者間のいかなる紛争を伴いつつ、具体的にどのように進行していたのかを、アムト・アルトールピンの史料に基づきながら分析する作業を開始した。この土地開発の過程においては、御料地当局の森林保護の観点が強固に貫かれているとの印象を得ている。この点、さらに追究したい。
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