本研究の目的は、伝統的に「公的な」知識生産の拠点であった大学が、市場化の流れによって急速に「私的な」性格を強めている現状を歴史的に概観すると共に、失われつつある「アカデミックコモンズ」の再構築の必要性を実証的に論じることにある。本研究は、おもに1970年代から2000年ごろまでのアメリカの大学の変遷を、「知識経済」に政策の基盤をおこうとするアメリカ政府の産業政策との関わりから検証する。地域経済にオーブンに開かれた研究活動、大学発パテントの積極的な導入と企業へのライセンス供与、大学学長への権限の集中と統括的な大学経営、ベンチャーキャピタルへのリミテッドパートナーシップを通した資金的関与、80年代から始まる大学資産(Endowment)のポートフォリオ投資の試みなど、おもに80年代から加速したアメリカの大学と大学政策を、東と西の代表的な研究大学、スタンフォード大学、ハーバード大学、MIT、 UCLA、 UCバークレー、UCSFの内部資料とデータを用いて分析する。 平成20年度は、これまでの予備調査の成果をふまえて、8月にEuropean Association of Socjal Studies of Scienceにおいて、“Boundaries between Public and Private: Implications for University as a Public Domain"と題した学会報告を行った。また、2月18日から28日まで、UCバークリー、スタンフォード、MITの調査を行った。各大学のPresident Officeの文書(過去全ての学長関係の文書、手紙、議事録、予算書、学内研究プランの文書など)、Board of Trustee関連の文書、Provost関連の文書などを調査した。これらの大学では、研究テーマに関係する研究者6名とTechnology Licensing Officeのディレクター1名にインタビュー調査も行った。
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