研究概要 |
研究計画の最終年の平成22年度は、平成20年度から平成21年度にかけて構築されたデータセットをベースにして、日本企業における本社と事業部の関係、本社組織機構の変化、事業部内の環境指向性の変化という3つの観点から日本企業の環境適応力を検討した。具体的に利用したものは、東証一部上場企業407社の経営者の前職・職歴データと組織構造に関するデータセットである。データセットに含まれる項目には、取締役会以外の全社的意思決定システム、本社のスタッフ機構、各社の組織階層数,組織構造(職能制、一部事業部制、事業部制、カンパニー制)情報などが含まれる。上記データベースをふまえた計量分析の結果、次のような事実を明らかにすることができた。第一に、1990年代から2000年代半ばにかけて事業部門以上に本社の機能部門の人員スリム化が進行した。また,人員のスリム化という現象は、執行役員制度の導入を伴って、トップマネジメントレベルでも観察される傾向であった。第二に、本社から事業部への分権化の傾向が見られるものの,その変化は必ずしも一様ではなく、集権化が進行した企業も存在した。第三に、本社の機能部門規模は総従業員規模の拡大とともに大きくなり,海外事業所の進展および研究開発比率の上昇とともに大きくなる傾向が観察された。第四に、事業部内の組織の劣化と市場志向性とは負の関係にあり、市場志向性の向上のためには社内の階層間のコミュニケーションが重要な役割を果たす、という発見事実である。研究成果として、日本語論文を2本,英文論文を1本公刊し,海外での研究発表を2回(European Group for Organizational StudiesおよびStrategic Management Society)行うた。
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