本研究の目的は、企業における情報システム(IS)のアウトソーシングの現状分析をふまえ、ISソーシング戦略の立案や実行時における課題を検討し、とくに、ISソーシング戦略におけるIS子会社や企業間アライアンスの役割を理論的・実証的に明らかにすることにある。ここで、典型的なISソーシング戦略とは、IS業務を自社内でインソーシング(内製)するか、それともアウトソーシング(外注)するかという内外製(メイク・オア・バイ)に関する意思決定とそれにもとづく具体的なマネジメントの構想を意味する。 本研究課題実施の1年目となる平成20年度は、企業におけるISアウトソーシングの取組みの現状と動向に関して、その実態を把握し、とくにIS子会社のマネジメントの多様化現象について考察した。その結果、以下のことが明らかとなった。 1、ISアウトソーシングに関する理論的なアプローチとして代表的なのは、取引コスト理論(TCE)と資源ベース理論(RBV)である。前者に立脚すれば、資産特定性に起因する機会主義の脅威を低減し、取引コストの増大を抑制する必要がある場合には、インソーシングや別会社方式によるISアウトソーシングが選好されると考えられる。また、後者の観点では、IS業務に関する独自の資源や能力自体が他社によって模倣や代替されにくいコア・コンピタンスとして位置づけられる場合などにはインソーシングや別会社方式が選好されると考えられる。 2、形態別差異に起因するISアウトソーシングの効果や問題点などを比較論的に分析する先行研究では、外注方式と別会社方式の2形態に注目する分析がなされている。ただし、複数の研究によって異なる知見が得られているケースも存在する。また、ISアウトソーシング形態の今日的な多様化現象の要因や背景についての分析・検討は十分とはいえない。
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