研究概要 |
平成21年度は既存の多様な経営戦略論を3つの軸によって整理する作業を進め,またそれに合わせた事例研究の成果を1冊の本にまとめて出版した.3つの軸とは,(1)事前のトップダウンによる計画を重視する立場vs.事後的なミドルからの創発を重視する立場,(2)環境の機会と脅威を軸足として戦略を策定する立場vs.経営資源に軸足を置いて戦略策定を行なう立場,(3)安定的な構造を重視する思考法vs.ダイナミックな相互作用・プロセスを重視する思考法という3つである.これら3つの軸を活用して,既存の研究を(1)戦略計画学派,(2)創発戦略学派,(3)ポジショニング・ビュー,(4)リソース・ベースト・ビュー,(5)ゲーム論的アプローチに分類した上で,日本の研究者が研究してきたリソース・ベースト・ビューが欧米のそれとは異なり,創発戦略的な要素を多分に含んでいるものであること,それ故,行為論的な経営資源観とも呼べる研究枠組みの要素を既にそれらが示していることを明らかにした. また,このような視点から,いくつかの事例を考察し,この行為論的な経営資源観のもつ視点としての意義を明確化した.典型例はデバイス内製の罠と呼ばれるような現象である.すなわち,他社との差別化のためにコア・デバイスを内製すると,その技術者たちの自発的創発戦略により,組織内が統一的な行動のとれない状況に陥る可能性があることを組織メンバーの相互行為と環境との相互作用に注目して明確化した.
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