研究概要 |
平成22年度は,行為論的な経営戦略論の理論基盤を歴史的に整理するべく,経営組織論,とりわけ,日本における実証系の経営戦略論の研究を整理・検討する作業を行なってきた.とくに重要であったのは,当初,組織構造のコンティンジェンシー理論を基礎にして実証研究を行なってきた研究グループが組織文化と戦略概念を導入して役割体系としての組織構造の概念を徐々に不要なものへと変更していったことであった.この流れはその後,創発戦略の議論と結びついて,組織内の行為と相互行為が戦略を創発し,市場構造を創発するというタイプの理論化に発展した.さらにこの創発戦略論の議論を経た後で,新製品開発を通じた新規事業開発と組織変革の研究が進められていくことで,経営組織論の領域における構造概念が後背に退き,行為と相互行為が戦略を生みだし,その戦略が実行されるプロセスで組織内の知識と行動様式が変革されるという知識創造論の基本的な図式が成立してくることが明らかにされた.このようにして,かつては役割体系としての組織構造という概念が,知識・行動様式としての組織という概念に置き換わり,組織構造が経営学の中心から消失していったのである.その構造論喪失のプロセスにおいて,創発戦略論あるいは行為論的な戦略論の果たした役割は非常に大きい.しかし,その行為論的な戦略論が経営者的視点によって活用される場合,再び組織内の行為と相互行為を左右する何らかの要因に注目せざるを得ない.そこに「場の理論」などの必要性が感じ取られた理由があると思われる.そのような概念を超えて,さらに組織メンバーの行為を方向付けるためには,やはり役割体系としての組織構造の概念がもう一度必要になる可能性が高いと思われる.この構造と行為の相互作用が平成22年度の研究成果から浮かび上がった課題である.
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