企業経営者が直面する諸問題をリアルオプションという概念を用いて表現し解法するという現代的かつ重要な課題を、研究代表者等により開発された解法可能な問題の範囲を拡大ならしめた数学的手段を適用して、より現実に近いモデルを構築した上で精緻に解法することが『研究の目的』のまず第一点である。具体的には、種々の経営上の複数の選択枝を同時(ないしは段階的に)行使できる場合(複合リアルオプション)の最適化問題を設定・解法し、企業経営のための普遍的な提言を行うために問題の解の経済的含意を明らかにすることを重要な課題と位置づけている。 20年度の研究実績は以下のとおりである。まず保険会社は抱えているリスクを再保険するが、この際に事務上のタイムラグと固定費が発生する場合の最適再保険戦略に関する論文を出版(査読付)した。また借入によって設備投資を行う場合の最適戦略に関する論文も査読付専門誌にアクセプトされている。後者は設備投資に関して建設期間が存在することを明示的に問題に盛り込む等、現実により近い設定とした。これらの論文が持つ数学的精緻さに加えて(当初の計画にあるとおり)分析結果のもつ経済的意義を明らかにした点が実務家を含む読者層にとっても重要性があると評価されたものと考えている。つまり、単に数値計算による解法に基づく研究とは一線を画していると認められたのではないかを考えられる。加えて、20年度中には転換社債ファイナンスによる設備投資問題、保険リスクのヘッジ問題、金融機関の最適自己資本比率問題等についても分析を進めた。
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