企業経営者が直面する諸問題をリアルオプションという概念を用いて表現し動的分析を行うことが目的である。研究代表者は新しい数学的手法を開発する過程にあり解法可能な問題の範囲を拡大しつつあるため、より現実に近い(意思決定上のオプションが複数存在する場合、また取引の相手側にもオプションが存在する場合)問題への取り組みが可能になっている。これにより企業経営のための普遍的提言を行うこと、また解の経済的含意を明らかにすることを重要課題と位置づけている。 21年度は4本の論文が国際的査読付ジャーナルに掲載された。具体的内容としては、企業が経済環境に応じて生産等のモードをスイッチすることが可能な場合の最適戦略を分析する問題に関するもの、またタイムラグと固定費が存在する場合の企業の配当政策に関するもの、そして被雇用者が現在の仕事に従事しながら、転職を考慮する場合の最適方法に関するもの、そして借入れによる設備投資問題である。いずれも数学的精緻さ、斬新性に加えて、分析結果のもつ経済的意義を明らかにした点が評価されたものと考えている。加えて21年度は新たな研究として、金融危機等に際して銀行が自己資本比率を改善するべき最適のタイミングを明らかにしようとするモデル、(リアル)オプションを実行した場合に2つの価格の関数として書かれるペイオフについての研究を行っている。前者はジャンプを含むモデル、後者は多次元のモデルであり、従来から困難とされている問題である。
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