平成23年度は最終年度をむかえ、研究成果をまとめた著書の執筆を行い、平成23年9月に「価値づくり経営の論理」(日本経済新聞出版社)を出版した。日本製造企業の付加価値創造能力と価値獲得能力を高めるための組織能力を明らかにするという当初の目的が達成された。研究成果全体の中での重要ポイントで、平成23年度に著書として完成させた内容の概略は以下のとおりである。 付加価値創造に関しては、「ものづくり」と「価値づくり」からなる理論枠組みを構築した上で、付加価値創出に近い概念として価値づくりを定義した。価値づくりに必要とされる組織能力としては、1.技術的に模倣をされない独自能力と、2.機能的価値を超えた意味的価値を創出するための組織能力であることを、理論的に明確にし、定量・定性調査によって実証した。 技術的な組織能力としては、長年積み重ねたノウハウや問題解決能力が重要だということがわかった。その中身としては、ソリューション技術に関する問題解決能力の積み重ねも、要素技術と同等以上に重要である点を、キーエンスやディスコの事例を通して明らかにした。その場合も、技術に関する組織能力の多くの部分は、長年にわたり鍛えられた技術者の能力によって構成される点が明らかになった。機能的価値だけでなく、意味的価値についても、ものづくりの組織能力が重要である点をアップルの事例などで示した。擦り合わせ型の商品を積み重ね技術によって開発・製造し、意味的価値を創出するのが、日本の製造企業にとって価値づくりをする最適なモデルだと結論づけた。
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