本研究は、いわゆる「フードビジネス」(食関連産業)に焦点を当て、そのグローカル化(同質化という意味でのグローバル化と、多様化という意味でのローカル化の同時進行)のプロセスを理論的かつ実証的に検討することを目的として実施された。近年、ヒトの国境を越えた移動にともなって食文化の輸出入が世界的規模で展開されている。また、冷凍・冷蔵技術や調理工程め自動化技術の進歩がフードビジネスの海外展開を促進するとともに、システム技術の開発が調理師を必ずしも必要としないチェーン展開による事業拡大を可能としている。しかし、このシステム上に乗せられるメニューは地球規模で同質化が進展する部分を共有しつつも、それぞれの国・地域の民族性やそれにともなう嗜好性による多様化は着実に進んでおり、まさにグローカリゼーションの様相を呈している。また、輸入された食材や料理が現地の食材やメニューと融合する「フュージョン料理」の登場や、それら独自の変遷を遂げた「フュージョン料理」の発祥国への「逆輸入」や第三国への飛び火、そしてそうした動きによるさらなる変遷を遂げる動きが見られるようになっている一方で、逆に当該地域の食文化の伝統をあくまで忠実に守った店構え、調理方法、味を追求する店が新たな食の提示による翻訳的適応に対するアンチテーゼの存在となることで食のバリエーションを豊かにし、顧客に選択の幅を広げている。本研究では、こうした動きを「企業」と「消費者」の相互作用がもたらす「食の内容」や「食のスタイル」の変遷としてとらえ、新たな食文化の受容の動態について明らかにするとともに、「経営学」と「人類学」の視角から検討を加えることで、フードビジネスがグローバル社会においてきわめて重要な役割を果たす存在であることを明らかにした。
|