本年度は、越後妻有アートトリエンナーレ、四国九州アイランドリーグ、瀬戸内国際芸術祭、金沢21世紀美術館に関する資料収集とフォローアップのインタビュー調査を実施した。このうち、越後妻有アートトリエンナーレについては、詳細な事例分析を行い、その成果をワーキングペーパーとして取りまとめるとともに、組織学会研究発表大会(2009年6月、東北大学)および第25回欧州経営学会(2009年7月、スペイン)において報告した。 この中で、我々は、地域住民、行政、企業、ボランティア、アーティスト等、本来相容れることが困難な制度固有の論理を持つ利害関係者集団が文化的事業を通じたプラットフォームの模索と形成に深く関与する中で、それぞれの利害を「相互資源化」することによりはじめてダイナミックな資源の活用・循環・創出が可能となるというフレームワークを導出した。また、このような協働にかかわるロジックの転換点においては、文化的あるいは社会的企業家とも呼ぶべき人物の存在が極めて重要な役割を果たしていた。 もちろん、事業の成長フェーズとしては萌芽的段階であるため、社会的企業家の活動がスムーズに関係者のロジック転換につながるわけではない。彼らの活動が既存の慣行や動員する関係者・資源との間での緊張・摩擦を引き起こすこともある。そのため、社会的企業家の活動を現実の組織フィールドに着地させる翻訳者としての支援者の活動もまた、見過ごすことはできない。この意味において、文化的な事業創造は、関係者による集合的な行為として成立しているとも言えるだろう。 未だわが国における社会的企業家活動にかかわる研究は萌芽的な状態であるため、本研究の遂行により海外における研究との間隙を埋めることには学術的にも大きな価値があると考えられる。
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