本研究課題は、第3期科学技術基本計画が政策目標のひとつとして掲げた「世界トップクラス研究拠点」の形成に関連して、その基本的な要件を明らかにすることを目的としている。前年度までの間に、欧米の世界トップクラス研究拠点に関する事例情報を収集し、特にカリフォルニア工科大学については現地調査により詳細な情報収集を実施した。当年度は、それらの情報に基づき、カリフォルニア工科大学をベンチマーキングの対象として、日本の大学との総合的な比較分析を行った。その結果、同大学が世界トップクラス研究拠点としてのポジションを確立する上では、特に部局や研究分野の境界を超えた研究者間のコラボレーションによる学際的なプロジェクト研究が重要な役割を果たしてきたことが明らかになった。一方、異分野間コラボレーションに適合的な組織規模を戦略的に維持してきた同大学とは異なり、常に拡大戦略をとる方向にインセンティブが働いてきた日本の大学では、組織の拡大に伴って部局ごとの権限が相対的に強化されることが避けられず、部局の枠を超えた新領域創出への取り組みは独立した常設組織によって推進されてきた。そのような常設組織は、大規模かつ長期的なプロジェクトを担うことができるという利点を持つ一方、分野間の利害調整に相対的に高いガバナンスコストがかかることになる。このような問題点を解決するための手がかりを得るため、当年度は、民間企業の研究活動における部門統合や知識の移転・共有の仕組みに関する検討も行った。また、組織の枠を超えて追求される「オープンイノベーション」の成立条件について考察した。
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