本年度は、最終年度であった。そこで、これまで収集した情報を整理することに重点をおいた。過去の調査において、中国、マレーシア、ベトナム、タイ、シンガポールなどに進出した日系小売企業の状況を把握することができた。本研究は、そうした進出状況、および現地での活動をアーキテクチャの視点から分析することをテーマとしているが、この研究期間は、まさにそうしたアーキテクチャの変化の時期であったということがわかった。 それまでの散発的な進出から、統制がとれた組織的戦略的進出に変化する過程で、小売フォーマット(品揃え、接客、PR方法など)も変化している。一方で、東アジア、東南アジアの消費市場自体が変化している。そこで、小売フォーマットをアーキテクチャと考えるのであれば、企業戦略と消費市場をつなぐ要素として、小売アーキテクチャを考えることができる。初期の段階は、日本のアーキテクチャを持ち込みつつ、インテグラルなやり方でアーキテクチャを構築する時期だった。しかし、その段階を超えると、ある種のモジュラー型のアーキテクチャとして確立し、それを再生産するという意味で、店舗や進出地域を増やしていく。しかし、消費市場自体が変化するので、そのアーキテクチャは固定的ではなく、再構築は免れない。 こうした、ダイナミックなアーキテクチャの進化プロセスとして、小売業の海外進出を分析することができることがわかったことが、本研究の意義である。この知見は、小売に限らず、現地にローカライズするタイプの企業進出には共通して見られる可能性があり、今後の他の産業への適用も有望であると考えている。
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