逆説的業績モデルとは、業績基準をめぐる不確実で不安定な状況、つまり「業績とは何か」が正確にわからないことがむしろ組織の有効性に寄与するという考え方である。このモデルの理論的根拠を明確にするため、ルーマンのシステム論の視点から企業業績概念の整理を行なった。この視点からすると、企業は社会システムの一種として位置づけられるので、企業業績もシステム論の視点から、つまりシステム合理性の一種として整理することができる。この概念によって、組織有効性概念をめぐる自然モデルと目標モデルの対立は、環境の複雑性を把握する能力の段階的な違いへと相対化される。そして、システムの存続にとって異なるプログラミング形式の併用や切り替え、つまり高次のコントロールが重要であるとすれば、複数の矛盾した業績指標の併存や変化が組織有効性に寄与するという逆説的業績モデルの考え方もシステム合理性という点から理解可能となる。また、今年度は、日本企業における業績基準の変化と相互関係を時系列的かつ数量的に分析する前段階として、2007年に発行された雑誌記事について質的なテキスト分析をマスコミの記事および学術的研究論文について行なった。
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