世界的に生物多様性の急速な損失が懸念されているなか、生物多様性条約(CBD)においては民間企業がその社会的責任(CSR)として自主的に生物多様性保全に取り組むことが強く期待されているが、客観的な評価基準を設定することが困難である等の問題がある。 CSRとしての生物多様性保全への取り組みにおける課題は業種によって異なるため、前年度は鉱業を事例として取り上げたが、本年度は自然を改変する建設工事を行うことによって生物多様性へ大きな影響を与えている「建設業」を取り上げ、日米欧の主要企業の取り組みを調査・比較し、日本企業の特徴と今後の課題を考察した。また、CSRとしての活動が生物多様性の保全にどの程度貢献するかについて、環境の持続可能性の視点から分析し、その活動をより有効なものとするためのNGOや政府の役割を明らかにした。 近年、生物多様性保全に市場原理を活用する経済的手法が注目されている。米国では生物多様性保全の経済的手法として、湿地と絶滅危惧種の生息地のノーネットロスを目標とした生物多様性バンキング制度を既に長年運用している。本研究では、米国における経済的手法の現状と課題を調査するため、米国ソールトレイク市で2009年5月に開催された米国ミティゲーション・生態系バンク会議に出席し、参加者にインタビューを行い、その結果を基に米国でのバンキング制度の問題点を明らかにした。また、2009年9月にドイツを訪問し、ノーネットロス政策やバンキングの現状と課題を調査した。また、このような欧米での制度を参考とし、生物多様性のノーネットロス政策とそれを実現するための生物多様性オフセット・バンキング制度の日本への導入の可能性について考察した。
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