本研究は、創業者精神が企業成長にどのように影響しているかを明らかにし、創業者や後継経営者あるいはオーナー経営者に提言を行うことを目的とした。そのためには、創業者精神の活用状況の企業ごとの差異を明らかにすることで、企業の創業者精神が組織成長に与える影響を明らかにした。 研究方法は、実証研究として企業でのアンケート調査とインタビュー調査を行った。尚、経済変動により、計画していた企業数の協力を得ることは難しかったが、典型的な事例3社のデータを獲ることができた。 具体的には、後継経営者3代目以降の企業、すなわち創業者が組織に直接的な影響を与えていない段階の専門経営者企業2社およびオーナー企業1社、合計3社の従業員の創業者精神に対する意識調査を実施することができた。 主たる研究結果は、①創業者精神の「活用」され方は企業によって異なること、②従って、創業者精神は「経営資源化」されうること、③創業者精神の従業員による理解は、専門経営者企業でもオーナー企業でも大差はないこと、④但し、オーナー企業のほうが創業者精神の個人特性の側面にも注目する傾向がみられたこと、そして、⑤創業者精神の伝承現象ではトップダウン型とトップ現場並行型が見られたこと、などが上げられる。尚、トップ現場並行型は高業績の専門経営者企業のみにみられた。 本研究の考察として、高業績企業に見られたトップ現場並行型では、現場レベルでの創業者精神が様々なレベルのイノベーションを起こして好業績を上げていることが想定される。そのためには①創業チームの中で創業者精神がすでに分散され、組織成長に伴っても組織の現場レベルに創業者精神が継承されているのか、あるいは②組織成長のプロセスで、経営者が創業者精神をあえて現場に埋め込むような組織学習を戦略的におこなっているのか、どちらのプロセスでこの様な現象がおきるのかを明らかにするのが更なる課題となった。
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